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花との距離     みんなが認める美女なんですから

第57回日本ジュニア展入選作   (水彩)

昔の映画女優は写真を撮られるとき、自分がいちばん美しく見える角度からしか撮らせなかったそうです。

花もまた女優と同じ。この角度からお願いしますと言いたがっています。
花との距離     みんなが認める美女なんですから_a0134365_831915.jpg
でも、はいはいと安易に妥協しないで、このほうがもっと魅力があると思うんですけど、という提案をしてみてください。相手は手ごわいですよ。みんなが認める美女なんですから。

作者は小学六年生。さすがにこのくらいの学年になるとなかなか健闘しています。その健闘ぶりをご紹介してみたい。

だいたい女優然(?)とした花は注目をあびたいので、真ん中に置かれたがります。

・・・・ もうちょっと左寄りにお願いします。そうすると、鉢に影ができて、花にも葉にもボリュームが出てくると思うんですけど。
(むむっ)

・・・・ あっ、そんなふうに直さないほうがいいと思うんです。長い首がすっと倒れるように伸びているからきれいなんです。
(むむっ)
花との距離     みんなが認める美女なんですから_a0134365_841829.jpg

・・・・ 誰もそんなこと言うわけありませんよ。横向きだから首がきれいに見えるんですから。それに、ほら、空間がそれだけひろがってみえるし。
(むむっ)

・・・・ たしかにその色だけ取り出したら、おっしゃるとおり地味なあずきいろ(もうちょっとほかの言い方がないのかなあ)ですけれど、テーブルクロスがとてもきれいなパステルカラーですから、全体が暗くなるということは決してないと思います。
(むむっ)

・・・・ それもいいですよね、ご希望があれば、背景にちょっと雪みたいに白をこまかく入れて
花との距離     みんなが認める美女なんですから_a0134365_842422.jpg

・・・・ いえ、そんなことはありません。テーブルクロスのポップな水玉が、逆に魅力を引き出すように働いているんですから。
花との距離     みんなが認める美女なんですから_a0134365_962026.jpg
この水玉があまり小さいと、全体がせせこましく感じられて、花の可憐さや大きさが逆に見えなくなってしまいます。もちろん葉の緑とは質感もちがえますから。

シクラメンが傲慢な態度でむむっとしたかどうかは定かではありません。でも作者がシクラメンを相手にがんばっていることは、おわかりいただけるかと思います。

人間関係でも、本でも、絵でも、ばくぜんといいなあと思っていたものが、あることを境に、とてもいいなあに変わることがあります。そのきっかけとなるのは、なにげないほほえみだったり、心にしみる一行だったり、遠目に見た色彩だったりとささいなことが多いものです。

対象との距離がぐっと縮まったという手応え。それをぜひ覚えてください。

たぶん、このシクラメンだって最後にはこういってくれたと思いますよ。
花との距離     みんなが認める美女なんですから_a0134365_8445269.jpg

最初はどうなるかと心配だったけれど、思っていたよりもずっとよく描けている。なんだか自分の新しい魅力を発見してもらったみたい、って。

細部発見シリーズ(14)


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